インドネシア人の名前

インドネシア人の名前は、日本人からすると少しややこしいものとなっている。

基本

基本的に、日本語で言う「姓」を持つ人はいない。インドネシア人の名前は複数語で構成されていても基本的にすべてがファーストネーム(個人名)となっている。

例えば、インドネシア共和国第6代大統領であるスシロ・バンバン・ユドヨノ(Susilo Bambang Yudhoyono)氏は、その全てが個人名となっている。

逆に、初代大統領であるスカルノ(Sukarno)氏はこの一語だけで名前であり、姓・名の区別はない。さらにこのスカルの氏の娘で、第5代大統領でもあるメガワティ・スティアワティ・スカルノプトゥリ(Diah Permata Megawati Setiawati Sukarnoputri)氏は、「Sukarnoputri」が父称でいわば姓に近い概念だが、日本語の姓とは異なっている。※父称については「アイスランド人の名前」を参照のこと

様々なルール

インドネシア人の名前には、いくつかのルールが存在する。

ジャワ人

「Su-」から始まり、「-o」で終わる名前は、通常ジャワ人である可能性が高い。ジャワ島出身のスカルノ氏はこれに該当する。「Su-」は”良い”を意味するため好まれる傾向にある。

またジャワ人は、名前を変更することがしばしばあるという。インドネシア共和国第7代大統領のジョコ・ウィドド(Joko Widodo)氏は、幼い頃Mulyonoと名づけられたが、12歳のときに今の名前に変えている。

称号

英語の「Sir」に似たものとして、インドネシアでは次のような称号・敬称が用いられる。

  • Pak:男性。「父」を意味する。
  • Bapak:男性。英語の「Sir」と同義。
  • Saudara:男性。「ジェントルマン(紳士)」と同義。
  • Saudari:女性。男性の「Saudara」と同じ用例で「レディ(淑女)」。
  • Ibu:女性。「母」を意味する。

例えばスカルノ大統領は、今でも敬愛を込めて「ブン・カルノ(Bung Karno)」あるいは「パク・カルノ(Pak Karno)」と呼ばれている。これは同志あるいは兄貴、ミスターという意味合いを持つ。

父称

姓に代わるものとして父称を用いる場合もあり、特にイスラム教徒に多い。

例えば、インドネシア共和国第4代大統領であるアブドゥルラフマン・ワヒド(Abdurrahman Wahid)の父はワヒド・ハシム(Wahid Hasyim)であり、父の名を父称として受け継いでいることがわかる。さらに祖父はハシム・アシアリ(Hasyim Asy’ari)であり、ナフダトゥル・ウラマー(NU)の創設者でもある。

一例として、父:Suparman、母:Wulandariから生まれ、子にHasan Suparmanputraと付けた場合、出生証明書には「SuparmanとWulandariの子供Hasan Suparmanputra」と書かれ、公文書上は「Hasan Suparmanputra」と書かれる。※非公式に父親の名前そのものを姓として用いる(Hasan Suparman)事があるが、これは出生証明書とは食い違っているケースが多い。

母系

主に西スマトラに居住するミナンカバウ人は、世界最大の母系文化民族で、かつインドネアシアでも4番目に大きな民族グループを形成している。彼らの称号や名前はすべて母系を通じて受け継がれている。

またジャワ島のバンテン(Bantenese)人、スマトラ島のバタック(Batak)人、ベタウィ(Betawi、ブタウィ)人、スラウェシ島、フロレス島、マルク諸島などにおいては、「氏族名」を姓として用いることもある。この場合、「個人名-姓」の順で記載する。

国外での便宜的な姓

国外で活動・生活するインドネシア人は、便宜上の姓を持つことがある。ただしこの場合も特にルールなどはなく、個人の好みで付けられる。

名前の由来

サンスクリット語由来の名前

信仰している宗教に関係なく、多くのインドネシア人はサンスクリット語由来の名前を持つ。

例えば初代大統領であるスカルノ(Sukarno)氏の名前は、”善”を意味する”su”と、”戦士”を意味する”karno”あるいは”Karna”を組み合わせたものである。なおカルノは、古代インドの叙事詩「マハーバーラタ(Mahabharata)」に登場するカルナ(Karna)から来ている。

また同第6代大統領であるスシロ・バンバン・ユドヨノ(Susilo Bambang Yudhoyono)氏の場合、”Susilo”は”良い性格(あるいは行動・道徳)”を意味する「su」「sila」から取られており、同様に”Yudhoyono”については、”戦争または戦い”を意味するyudhaと”壮大な物語”を意味するyanaから取られている。

中国由来の名前

古くより中国系民族や華僑が進出しており、その影響を受けた名前も多い。

しかしスハルト大統領時に中国共産党の影響力を制限する目的で、華僑に対してインドネシア名への変更を強く推奨した経緯(Legislation on Chinese Indonesians)がある。

Chinese surname – Wikipedia

アラビア語由来の名前

イスラム教徒が9割弱を占めるインドネシアでは、アラビア語由来の名前が非常に多い。

西洋由来の名前

ポルトガル人やオランダ人の影響を受け、これらの言語に由来する名前も多いがが、必ずしもクリスチャンではない。またカトリック、プロテスタント両方の名前が混在する。

具体例

スカルノ大統領一家

スカルノ(Sukarno)※サンスクリット語の由来については上記参照

長女:メガワティ(Megawati)
第一夫人ファトマワティ(Fatmawati)との間に生まれた子で、第5代大統領となった。彼女の正式な名前はメガワティ・スティアワティ・スカルノプトゥリ(Diah Permata Megawati Setiawati Sukarnoputri)である。最後の「Sukarnoputri」はSukarnoの娘を意味する父称となっている。なおMegawatiはサンスクリット語で「雲の女神」を意味する。
メガワティは、最初にSurindro Supjarsoと結婚してMohammad Rizki Pratama、Muhammad Prananda Prabowoの2人の息子をもうけ、さらに後、Taufiq Kiemas氏と結婚し、娘のPuan Maharaniをもうけている。

次女:ラチマワティ(Diah Permana Rachmawati Sukarnoputri)
ファトマワティとの間の第三子。「Sukarnoputri」は父称。

三女:スクマワティ(Diah Mutiara Sukmawati Sukarnoputri)
ファトマワティとの間の第四子。

第三夫人:ラトナ・サリ・デヴィ・スカルノ(Ratna Sari Dewi Sukarno)
日本では「デヴィ夫人」としてタレント活動を行っている人物。日本名は「根本七保子(ねもと なおこ)」。彼女はスカルノ氏との間に、娘のカルティカ・サリ・デウィ・スカルノ(Kartika Sari Dewi Soekarno)をもうけている。

スカルノ(Sukarno)氏の綴りは英語圏では”Sukarno”と記載され、ここでもそれを踏襲しているが、オランダ語の正書法ではSoekarnoと記載される。スカルノ自身は”u”を使用していたが、学校で”oe”を使用するように改められたのだという。
後に第2代大統領スハルトにより、スカルノとハッタ副大統領の名が冠して命名された「スカルノ・ハッタ国際空港(英: Soekarno–Hatta International Airport、インドネシア語: Bandar Udara Internasional Soekarno-Hatta)」の綴りは正書法が用いられている。
またインドネシア語版Wikipediaでは、彼の一族の名前の綴りは”Soe-“と記載されている。Soekarno – Wikipedia bahasa Indonesia, ensiklopedia bebas

伸るか反るか

日本語の慣用句で「伸るか反るか」という言葉がある。成否を天に任せて思い切ってやるというような意味合いだが、文字的によくわからない。

この語源はどうもインドネシア語にあるらしく、”のるか”はインドネシア語の”ナラカ(Naraka)”で奈落のこと。また”そるか”はインドネシア語の”ソルガ(Surga)”で天国のことを指すという。つまり天国に行けるか地獄に落ちるかという意味合いになっているようだ。これがいつ頃日本に入ってきて、誰が「伸るか反るか」という漢字を当てたのかはよくわかっていない。

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